前回は万葉集でおなじみの「アカネ」と「ムラサキ」の薬草を紹介しました。
人類の祖先はすでに250万年くらい前に誕生してたとされます。火の利用を知る前は野獣と変わらない食生活で、しばしば胃腸障害に苦しめられたことは想像されます。火を使い、食物を煮たり焼くことで殺菌、殺虫、また消化しやすく調理することも覚えていったと考えられます。野生の草木や果実、根などいわゆる草根木皮を採取して食する中で下痢や嘔吐時に毒性のために死亡するといった事態も経験しました。このようなことがありながら、人にとって有害なもの、無害なもの、口当たりがよく芳香のするものなど学習していきました。いわゆる生薬(しょうやく)の知識が少しずつ蓄積され、伝承されていったと考えられます。
山野の道端など、どこにでも見られる多年草である。夏から秋に1~1.5cmほどの赤や白の花を咲かせる。柄の先に2個ずつ花がつき、花弁に5本の紅脈があるのが特徴。花の下の萼(がく)を残して花弁は落ち、果実は熟すると開裂して種子を飛ばす。その形が御輿に似ているためにミコシグサともいわれる。
開花期の地上部を採集し、乾燥させたものが生薬の現証拠(げんのしょうこ)である。下痢止めによく用いられる。1回15g程度を煎じる。湿布やかぶれにはこの煎じ液を冷やし、ガーゼや脱脂綿に浸して患部をよく洗う。浴用剤としてもよい。
“現の証拠”でよく効くことに由来する。中国の老鸖草(ろうかくそう)といわれるものとは基源となる植物が少し異なる。また葉の形が猛毒のトリカブトに類似しているので、よく地上部を観察して採集するようにしたい。
日当たりのよい草地に自生する。高さ10~40cmで茎葉は対生し、1~4cm一脈で無柄である。8~11月に茎や枝の花柄上に5弁(5深裂)で紫色のすじの入った淡黄色の花を咲かせる。
花期の全草を採集し、日陰で乾燥したものが生薬の当薬(とうやく)、千振(せんぶり)である。0.05~0.1gを煎じて、また粉末のどちらでも胃腸病や食べ過ぎなどに用いられる。
名前はいずれもこの薬草の特徴からきている。よく効く当(まさ)に効く薬で当薬、千回振り出しても苦いからセンブリである。西欧でもゲンチアナ根(YellowGentian)は胃腸薬として用いられるが、センブリの仲間である。
日陰によく生育する上に、特有の臭気が生の葉や茎にあるのでよく知られている。6~7月に花茎を伸ばし、4弁に見える白い花を咲かせる。白い4弁は総苞片(そうほうへん)で、花はその中にある。
花期の地上部を刈り取り、乾燥させたものがジュウヤク(重薬、十薬)である。高血圧や利尿剤として1回5~10gを煎じて服用する。また生薬を火であぶり、腫れ物に貼ったり、生薬の搾り汁を虫刺されにつけたりいろいろと使用される。中国では魚腥草(ぎょせいそう)という名前で用いられている。
薬効が多いことから重薬、十薬となった。ドクダミは“毒痛み”からきている。葉は食用として天ぷらや湯がいてお浸し、油炒めなどにも用いられる。